2026年10月1日、「同一労働同一賃金ガイドライン」(正式名称:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)が改正・施行されます。
2020年の制度全面施行(中小企業は2021年)から5年が経ち、初めての大規模な見直となります。
今回の改正は、法律そのものの改正ではなく「ガイドライン(指針)」の改正という形をとっていますが、内容面では家族手当・住宅手当・退職手当などの判断基準が具体化されるほか、雇い入れ時に説明義務の存在を書面で明示することが新たに求められるなど、実務への影響は決して小さくありません。
本記事では、今回の改正で何がどう変わるのか、企業が施行日までに何を準備すべきかを整理してご紹介します。

今回の改正の全体像
2026年4月28日、厚生労働省告示第202号・第203号が公布されました。施行日は2026年10月1日です。改正は大きく次の3つで構成されています。
- 雇い入れ時に明示すべき労働条件の追加(省令改正)
- 同一労働同一賃金ガイドライン本体の見直し(待遇項目ごとの判断基準の明確化)
- 事業主が講ずべき雇用管理改善措置の見直し
すべての事業所が対象で、企業規模による猶予はありません。
ガイドライン自体には直接の罰則規定はありませんが、対応が不十分な場合は労使トラブルや
訴訟のリスクにつながります。
なぜ今、見直されるのか
同一労働同一賃金制度の全面施行から5年が経過した今も、非正規雇用労働者は労働者全体の約4割を占め、正社員との待遇格差が十分に解消されていない実態があります。
特に、待遇差について労働者から説明を求められても、実態に基づいて十分に説明できていない企業が少なくないことが課題とされてきました。
当初は法律そのものの改正も検討されましたが、賃上げ圧力が続く経済状況の中での慎重論もあり、今回はガイドラインの見直しという形で実効性を高める方針がとられています。
あわせて、近年の最高裁判決(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、日本郵便事件など)で示された判断の考え方も、今回のガイドラインに反映されています。
ポイント1:家族手当・住宅手当・退職手当などの判断基準が明確に
今回の改正で実務上最も影響が大きいのが、各種手当・休暇について「問題になりやすい例」「問題になりにくい例」が具体的に示された点です。特に次のような待遇項目が挙げられています。
- 家族手当
契約更新を繰り返し長期雇用が見込まれる契約社員に支給しないケースは問題になりやすい一方、契約更新をせず短期間で契約が終了する社員への不支給は問題になりにくいとされています。 - 住宅手当
転勤のある正社員への支給自体は問題になりにくいものの、実際には転勤の実績がないのに正社員にだけ支給しているような「規程と実態の乖離」があるケースは問題視されやすくなります。 - 退職手当
長期勤続を支給目的としている場合に短期雇用者へ支給しないことは問題になりにくい一方、その目的に該当する(長期雇用が見込まれる)契約社員への一律不支給は問題になりやすいとされています。
※このほか、無事故手当・夏季冬季休暇・病気休職・福利厚生施設の利用・褒賞なども、同様に具体例が明確化されています。
共通しているのは、「正社員だから」「パートだから」という雇用形態のみを理由にした待遇差は、これまで以上に不合理と判断されやすくなるという方向性です。
各手当の支給目的を明文化し、職務内容・配置転換の範囲・その他の事情に照らして待遇差を説明できる状態にしておくことが求められます。
ポイント2:雇い入れ時に「説明を求めることができる旨」の明示が必要に
2026年10月以降にパート・有期雇用労働者を新たに雇い入れる際には、労働条件通知書等に
「正社員との待遇差について説明を求めることができる」旨を書面で明示することが義務化されます。
この明示を怠った場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
金額としては大きくありませんが、実務上より重要なのは、労働者が雇い入れの時点で「待遇差について説明を求められる権利がある」と認識することになるため、企業側もあらかじめ説明できる体制を整えておく必要があるという点です。
厚生労働省のモデル労働条件通知書も改訂される見込みです。自社の労働条件通知書・雇用契約書のひな形についても、施行前に見直しておくことをおすすめします。
ポイント3:無期転換後の労働条件点検も新たな義務に
有期労働契約から無期労働契約へ転換した後も、有期雇用時代とほとんど変わらない労働条件のまま据え置かれてしまう、いわゆる「タダ無期」の状態が課題として指摘されてきました。
今回の改正では、無期転換後の労働条件を決定する際に、通常の労働者との間に不合理な待遇差がないかをあらかじめ点検し、相違があれば解消することを求める規定が新たに設けられます。
「無期転換すれば同一労働同一賃金の論点はなくなる」というのは誤解です。無期転換者を雇用している企業では、転換後の待遇が有期雇用時代のまま据え置かれていないか、この機会に確認しておくことが重要です。
企業に求められる実務対応(施行日までのステップ)
- 待遇の棚卸し:正社員・パート・有期雇用・派遣それぞれについて、基本給・各種手当・賞与・退職手当・休暇制度を一覧化する
- 待遇差の理由の整理:職務内容・配置転換の範囲・その他の事情の3つの観点から、待遇差の合理性を整理し文書化する
- 就業規則・賃金規程の見直し:手当の支給目的・条件があいまいなまま「正社員に支給」とだけ書かれている場合は、明確な記載に改める
- 労働条件通知書・雇用契約書の改訂:待遇差について説明を求められる旨の明示を追加する
施行直前に慌てて対応するのではなく、余裕をもって準備を進めることが望ましいでしょう。
対応方法にお困りの方は、こちらからお問い合わせください。
おわりに
今回の改正は、待遇差そのものをゼロにすることを求めるものではありません。
大切なのは、「なぜその待遇差があるのか」を実態に基づいて説明できる体制を整えておくことです。
就業規則・賃金規程・労働条件通知書の見直しなど、自社での対応に不安がある場合は
お早めに当事務所までご相談ください。
リンク:厚生労働省_同一労働同一賃金特集ページ
リンク:厚生労働省_同一労働同一賃金ガイドライン
リンク:厚生労働省_派遣労働者の同一労働同一賃金について
