社会保険労務士が解説する就業規則の作り方~変形労働時間制の規定方法~

社会保険労務士が解説する就業規則の作り方~変形労働時間制の規定方法~ 就業規則

“変形労働時間制”という言葉を聞いたことはありますか?
全ての会社が、朝9時から仕事が始まり、午後6時で仕事が終わるわけではありません。
仕事の量が、毎日同じくらいの会社もあれば、土日に忙しくなる会社、夏と冬が忙しくなる会社、月末が忙しい会社等、さまざまだと思います。
会社にはいろいろ事情があるのに、一律で法律のルールを適用すると、かえって効率が悪くなったり、余計な残業が発生したりする原因となってしまいます。
労働基準法ではそういった事業場や業種に対応するような制度を作っています。
それが“変形労働時間制”です。

変形労働時間制の種類

変形労働時間制は、次の4つがあります。
・1ヶ月単位の変形労働時間制
・フレックスタイム制
・1年単位の変形労働時間制
・1週間単位の非定型的変形労働時間制


変形労働時間制とは、簡単に解説すると、労働時間を週や月単位で調整し、忙しい期間に多く労働し、暇な時期に休みを多くする働き方に対応するためのルールです。
普通の働き方よりも少し難しいルールを作り、制度を理解する必要がありますが、変形労働時間制を使いこなすことで、会社に合った働き方を実現できます。
時季に業務の繁閑がある会社は、ぜひ導入を検討してください。

変形労働時間制を会社に導入するには就業規則に定めたり、労使協定を結んだりする必要があります。
今回は、それぞれの就業規則上の定め方のモデル規程を載せますので、参考にしてください。

1ヶ月単位の変形労働時間制

“1ヶ月単位の変形労働時間制”とは、1ヶ月以内の一定の期間(例えば3週間や4週間といった感じ)を平均し1週間当たり40時間を超えなければ、特定の週(例えば月末の週など)に40時間を超えたり、特定の日(例えば金曜日など)に8時間を超えて労働させることができるという制度です。

1ヵ月単位の変形労働時間制を使用するためには次のことをする必要があります。
・労使協定の締結または就業規則その他これに準ずるものによる定め※1
・就業規則または労使協定の届出


以上の2つが必要になります。
※1 労使協定とは会社と労働者の代表や労働組合の代表と締結する協定です。
   就業規則に準ずるものとは10人未満の事業所で作られた就業規則などです。

(例)
(所定労働時間)
 第〇条 所定労働時間は、休憩時間を除き、1日について8時間とし、2週間ごとに平均し、
     1週間当たりの所定労働時間は40時間を超えないものとする。
     各日の始業および終業の時刻はつぎのとおりとする。

      始業時刻:午前8時00分
      終業時刻:午後5時00分
(休日)
 第〇条 休日は2週間ごとに定め、次のとおりとする。
      第1週:日曜日
      第2週:土曜日、日曜日
   2 前項に定める各週は、平成〇年4月1日を起算日とする。

※これは、隔週週休2日制を定めたものです。

フレックスタイム制

“フレックスタイム制”とは始業や終業の時刻を労働者に決定を委ねる制度です。

1日何時間働くのかは労働者の自由なので、所定労働時間は各週や各日では定めず、1ヶ月以内の期間の総労働時間(その期間を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲)として定める。

フレックスタイム制を適用するには
・就業規則その他これに準ずるものでフレックスタイム制の採用を定めること
・労使協定で具体的な枠組みを定めること


【労使協定で定めるべき事項】

①対象労働者の範囲
②精算期間(1ヶ月以内の期間として総労働時間を定める期間)
③精算期間の総労働時間
④標準となる1日の労働時間
⑤コアタイムを定める場合はその時間(必ず労働しなければならない時間のこと)
⑥フレキシブルタイムを定める場合はその時間(労働者が出勤時間の選択する時間のこと)
⑦起算日

以上を定める必要があります。

(例)
(フレックスタイム制)
 第〇条 前条に規定に関わらず、「フレックスタイム制」に関する協定を締結した時は、
     その対象者については、始業および終業の時刻について本人の自主的決定に委ねる
     ものとし、協定の定める条件により勤務するものとする。
   2 フレックス勤務をする者は、精算期間の総労働時間に著しく不足が生じないように
     努めなければならない。
   3 フレックス勤務をする者は、自ら始業・終業時刻を決定する場合、
     与えられた業務に支障を生じないよう努めなければならない。
   4 精算期間の総実労働時間が、精算期間の総労働時間を超える場合、
     その超過時間をその月の時間外勤務として、割増賃金を支払うものとする。
   5 精算期間の総労働時間が、精算期間の総所定労働時間に満たない場合、
     その不足時間に相当する額を給与から控除する。
   6 コアタイムに遅刻、早退、私用外出をした場合、一般の勤務に準じて査定する、
         ただし、その時間分の賃金控除は行わないものとする。
   7 フレックス勤務をする者は、深夜勤務または休日勤務するときは所属長に
     許可を受けなければならない。
   8 社員が、精算期間の途中にフレックスタイム制の適用部署から非適用部署に
     異動した場合、異動日の前日の期間までをその期間の精算期間として実労働時間を
     決定する、また、フレックスタイム制の非適用部署から適用部署に異動した場合、
     異動日から、その精算期間終了までをその精算期間とする。
   9 フレックス勤務をする者は、毎週金曜日までに、次の週の出社・退社の予定時刻を
     所属長に届け出るものとする。

1年単位の変形労働時間制

“1年単位の変形労働時間制”とは、1年以内の一定期間を平均して1週間あたり40時間を超えない範囲で、その期間中の特定の週、または特定の日に法定労働時間を超えて労働させることができるようにする制度です。

この“1年単位の変形労働時間制”を適用する為の要件は
・労使協定を締結し届け出る事

となっております。
その他にも、長い期間を平均する為、所定労働日数や労働可能時間等、決定しなければならないことが多数あります。
ちなみに、就業規則に規定することは要件となっていませんが、就業規則に定めておかないと労働者に強制することはできないので、しっかりと規定してください。

(例)
(1年単位の変形労働時間制)
 第〇条 前条の規定にかかわらず、労働者代表または労働組合と「1年単位の変形労働時間制」
     に関する協定をした場合、協定に定める対象者については、その協定に定めるところ
     により勤務する。
   2 変形期間における、所定労働時間および各日の所定労働時間は、原則として、
     毎年2月末日までに「年間カレンダー」を配付・掲示し明示する。

1週間単位の非定型的変形労働時間制

“1週間単位の非定型的変形労働時間制”とは、1週間のうち、日ごとに業務量が違い、繁閑の差が生じる事業所として決められた業種(小売業、旅館、料理店、飲食店に限る)で30人未満の労働者を使用する事業所のみに適用できる変形労働時間の制度です。

“1週間単位の非定型的変形労働時間制”を適用する為の要件は
・対象事業場であること
・労使協定を締結する
・労使協定の届出

となっています。

こちらも、就業規則に定めることは条件となっていませんが、定めないと労働者に強制できない為、かならず定めてください。

(例)
(1週間単位の非定型的変形労働時間制)
 第〇条 会社は従業員代表と「1週間単位の非定型的変形労働時間制」に関する協定を締結
     した場合には、就業規則の定めに関わらず、協定の定めるところにより、
     社員は1週間について40時間、1日について10時間の範囲で労働するものとする。
  2  会社は、各週(日曜日から土曜日までの1週間)の労働日及び
     各日の労働時間を各週の開始する前日までに書面により通知する。
   3  通知した労働日および労働時間は、業務の都合その他やむを得ない事由がある場合は、
         変更することがある。この場合、会社は少なくとも前日までに書面により通知する。

最後に

今回は、労働基準法にある変形労働の制度の定め方を解説しました。
正直、正確に理解し会社で利用するには難しいです。
手続きや規定作成も面倒で、かつ、正しく運用できないと“未払い賃金”が発生し、
労働トラブルの原因になってしまいます。

正しく使用することができれば、長時間労働や残業代の削減、社員さんの生活も充実させることができ、会社に対する満足度上昇も期待できます。

もし導入をお考えの場合は、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはこちらから

【参考】
リンク:厚生労働省「変形労働時間制の概要」
リンク:東京労働局「労働時間・休日・休暇関係」

タイトルとURLをコピーしました