職能給と職務給はどうちがうの?中小企業に向いているのはどちらかを社労士が解説

職能給と職務給はどうちがうの?中小企業に向いているのはどちらかを社労士が解説 労務管理

同一労働同一賃金やジョブ型雇用など、これまでの日本型雇用では出てこなかった単語をよく耳にするようになってきました。
同一労働同一賃金やジョブ型雇用というような、欧米型の考え方には職能給より職務給の方が向いているといわれていますが、そもそもこの”職能給””職務給”はどの様なものなのか
どんな違いがあるのかを解説します。

最初に簡単に解説をすると。
職能給・・・人を評価し、その人に会った報酬を支払う
職務給・・・仕事を評価し、その仕事をしている人に同じ報酬を支払う


この様な違いがあります。
それぞれ、どんなメリットやデメリットがあるか、どのような会社に合っているかを解説します。

職能給と職務給とはどんな手当か

職能給

職能給は、労働者の職務遂行能力に応じて決定する給与となっていて、
会社の中で人事異動を繰り返し、様々な業務を行い、その中で知識や経験を積み重ねます。
その積み重ねである、勤務年数や、年齢にあった役職に配置し、その役職や経験に見合った報酬を支払うモデルとなっていて、日本型の考え方である”年功序列””終身雇用”の考え方と相性がよく
長く一つの会社で勤め上げ、会社内部の様々な事柄に詳しくなることで給与が上がる仕組みで
人に仕事を付けるという考え方になります。

評価の内容も、仕事に関する知識や経験、技能や社内資格、リーダーシップやコミュニケーション能力など、個人の能力に重きを置かれ、成果や結果での判断というよりは、日々の積み重ねにより
評価や昇給されます。
上記のようなスキルは目に見えることが無く、数値化されるものでもないため、会社内で一定の教育や配置転換を行うことで、能力の担保を行い、勤務年数や役職などで評価が決定されることが多い
つまり、勤続年数や年齢により手当の基礎が決まるので”終身雇用”や”年功序列”の考え方に合った
制度だといえます。

職務給

職務給は、労働者の仕事内容や責任の度合いなどで決定する給与となります。
どの仕事をするかによって報酬が決まり、誰がその仕事をするかは関係ない制度で
年齢や勤務期間に差があっても、同じ仕事をする人には同額の給与となります。
報酬金額の変更も、長く働いているからという理由では上がらず、業務の内容や責任の度合いが変わらなければ、いつまでも同じ金額のままだったりします。
”成果主義””同一労働同一賃金”の考え方と相性がよく、誰が仕事をしても、同じ仕事なら同じ報酬になるため、給与に関する不満は出にくく、仕事に人を付けるという考え方になります。

評価内容も、職務内容や業務の専門性を重視し、加点も出来上がった成果物を基本とする為、数値化や比較がしやすく、絶対評価になるため、公平感や満足感も与えやすくなります。
つまり、仕事の内容で手当の基礎が決まるので”同一労働同一賃金”や”成果報酬”の考え方にあった制度だといえます。

職能給のメリットとデメリット

職能給のメリット

職能給は、会社での勤務年数や社内の評価により決定する役職をもとに給与を決めるため、若年期やスキル形成期の人件費を抑えることができます。
給与上昇が勤務年数とリンクするため、長期間在籍することで一定の年収がもらえるという考え方や
雇用されていれば給与が自然と上がっていく安心感があるため、従業員の離職率を下げ、職場定着率を上げることができ、継続的な人員確保も期待できます。
人手不足の時期には会社にとって有利に働きます。

職能給のデメリット

職能給は、終身雇用や年功序列を基礎として考えられた日本的な労務管理の考え方をもとにしていて、現在の流れである、”成果主義”や”同一労働同一賃金”とはマッチしづらい制度となります。
若年層や専門的な知識や経験を持っていて、より高度な業務ができる人材には、同じ仕事をしているにも関わらず給与に差があるという不公平感が生まれます。
また、会社内で長期的な教育を行い、ジョブローテーションなどをすることで、会社で必要な知識・経験を習得するようなキャリアモデルをとりがちですが、これは今の会社内でしか通用しないので、有能で転職をすることでキャリアアップするような人材には不評になります。
そもそも大企業でも終身雇用が難しくなり、中小企業では大多数の人が途中で転職をしていく以上、考え方として今の時代には合わない制度です。
更に、年齢、勤続年数により給与が上昇する為、成果の出ていない従業員に対して、勤務期間が長い場合や年齢が上がってきた際に、仕事に見合わない高い報酬を支払う必要がある等の問題点もあります。

職務給のメリットとデメリット

職務給のメリット

職務給は、会社内でのキャリアは一切評価に加えず、本人が担当している仕事内容や、その仕事により達成した成果が評価され、定量的に人事評価をすることができ、報酬に関する納得度は高くなります。
加えて、目に見える仕事の成果や仕事の難易度で評価をするため、どのようにしたら給与に反映されるかを従業員自身が明確に把握できるため、自己研磨や自己学習を促せます。
また、難易度の高い仕事は、ある程度の報酬が期待できるため、能力の高い人が集まりやすかったり、スキルや資格をもっている人を採用も期待できます。

評価に納得ができるため、高いモチベーションで仕事をすることができるのも大きなメリットです。

職務給のデメリット

職能給の最も大きなデメリットは社員の能力に合う業務を与えなければ、報酬に見合った成果が出せないということです。
能力や経験が無い人に難しい業務を与えても成果を出すことができません。
逆に経験や能力が十分すぎる人に簡単な業務を与えた場合、仕事が簡単でモチベーションを下げてしまいます。
さらに、この二つが同じ業務だった場合は、2人も同じ報酬額にしなければなりません。
職務給をしっかりと運用するためには、会社が従業員の能力をしっかりと把握し、与える仕事の難易度をただしく評価するスキームが必要になります。

また、契約をしている仕事を会社都合で縮小する場合なども、日本の雇用制度では難しい判断が必要になります。なぜなら、日本では解雇ができません。
労働基準法により、従業員はしっかりと守られています。
これまでの働き方であれば、会社の都合で不必要になった業務を担当している人は、人事異動にて別業務に就いてもらい、報酬変更もないということがほとんどでしたが、職務給を採用している場合、担当業務がなくなると、会社を辞めてもらうか、別業務に就いてもらい報酬の変更を行う必要が出てしまいます。「仕事がなくなったんだから仕方がない」と考えてしまいがちですが、会社都合で一歩的に契約変更はできず、これをするためには多くの金銭的コストが必要になります。

この様に、これまで以上に従業員の能力と仕事を比べ適切な人員配置や労務管理が必要になります。

職能給・職務給、結局どっちがいいの?

はっきり言うと、「こっちの方がいい!!」というのはありません。
会社にとって、従業員にとって、どちらがいいかを各社で判断する必要があります。

たとえば、長期間人員確保ができ、人件費を抑えることができ、かつ従業員にとっても長期間安定した給与を受け取れる職能給がいいと考える場合もあるし、高い能力を持ち、難易度の高い仕事を効果的に行い、成果を出すことができる職務給がいいと判断する場合もあります。

最も大事なことは、会社と従業員を理解し、自社にとってもっともあっている制度を選ぶことです。

それでも中小企業に向いているのはどちらかと言えば、私は職務給だと思います。
能力の高い人員の確保を行い、効果的に成果を出すことができるので、職務給の方が向いていると思います。ただし、準備や制度作成などは必ず必要なので、準備をしっかりとしましょう。

厚生労働省も、ホームページにて報酬決定のためのツールを公開しています。
参考にしてみてください。
リンク:職業能力評価基準について_厚生労働省

なかなか難しいことですので、わからない場合はぜひ、専門家への相談を検討ください。


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