「残業時間から個人事業主に」案の危険性は?~社会保険労務士が解説する問題点~

「残業時間から個人事業主に」案の危険性は?~社会保険労務士が解説する問題点~ ブログ

6/14に内閣府のホームページで公表された「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」に応募され優勝アイデアに選ばれた物が物議を呼んでいます。
どの様な部分が問題視されるのか?万が一会社に導入した際に発生する問題点を労働の専門家である
社会保険労務士が解説します。

アイデアコンテストで優勝に選ばれた案とは?

簡単に解説すると、所定労働時間内は正社員として勤務し、残業が発生した場合は業務委託とし、個人事業主として働くという働き方です。

メリットとして解説されているのは次の事柄で

会社として残業代を支払うよりも社会保険料の削減と残業代に消費税を含められる
社会保険料削減、消費税の節税効果!!
給料を貰う従業員も社会保険の保険料が少なくなる
手取りが増える

パッと見ると問題が無いように見えますが、実際に運用しようとすると
様々な問題が発生します。
もちろん内閣府としてもこのような働き方や働かせ方を推奨するものでは無く
自由な考えでアイデアを出してもらっただけでそのまま政策に反映することは考えていない
とコメントはあるようです。
それを踏まえてみてみて下さい。

「残業時間は個人事業主の案」の問題点

まず、そもそも労働法的にはどうなのか?と考えると、無条件で違反する法令は存在しません。

会社が「個人に業務を委託してはならない」というような法令や個人が「法人からの業務を受託してはならない」というような法律は存在しませんし、雇用契約を結んでいる企業から業務を受託してはならないというような法令も一般的な業務の範囲では存在しません。
つまり、今回の優勝アイデアのような働かせ方をする事が直接法律違反にはなりません。

では、問題にならないのか?問われると「大いに問題になる可能性があります。」と回答します。

実は、中小企業などで今でもこれに近いことは行われています。
残業時間を個人事業主とするのではなく、業務すべてを個人事業主とすることで
社会保険料や雇用保険料など一切かけず、もっと大きい金額を会社として削減できる為
個人事業主として業務を委託している会社をいくつか見たことはあります。

その相談を受けた時も、「直接法律には引っかからないが、運用方法を正しくしないと問題視されるし、従業員の不利益が大きくなるので推奨しない」と回答させていただいております。
なぜかというと、個人事業主に対して会社は指揮命令権を持っていません。
どの様な手順で仕事をするのか、どのように仕事をするのかは個人事業主に一任する必要があるので、社内での風紀や業務の進捗管理が難しくなります。
さらに、万が一の労働中のケガや事故で労災が適用できず、負担を従業員に強いることになり、それに不満を持たれるとトラブル(損害賠償等)の原因にもなってしまいます。
加えて、従業員の請求書の作成や確定申告などの事務負担も増え、それらをないがしろにすると、委託とは認められず遡って改善を求められたりします。

今回の優勝アイデアでもこれらすべてが当てはまり、会社と従業員のトラブルや偽装委託とされる問題など、たくさんのトラブルの種を放置している状態になっています。
この様な事を考慮すると机上では面白いが、実務では全く活用できないアイデアにとどまっていると言わざるを言えません。

今回のコンテストの優勝アイデアを見て、「これいいじゃん!」と安易に飛びつくことなく、問題が無いのかをしっかりと確認し、もし疑問があれば専門家である社会保険労務士に確認してください。

まとめ

今回は新しい働き方と賃上げの方法というような感じで話題になっていたアイデアを取り上げました。
新しそうに見えて、実は一部の界隈では昔からあった案でそれに少し手を加えたものに見えます。

これまでも良く相談されてきていて、問題点や運用の難しさ、従業員の負担などであまり推進せず、個人的には回避するよう求めていた内容が国のコンテストで採択されたことに驚いているというのが率直な感想です。

もちろん正しく運用し、活用できる業種もあるかもしれないのでアイデアすべてをダメと断じるつもりはありませんが、少し考えただけでも問題点や運用方法に頭を悩ませるので、導入は簡単では無いなぁと感じます。

今回の件や、こんな働かせ方はどうだろう?というよう疑問があればお問い合わせください。

リンク:内閣府_賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト
リンク:yahooニュース_内閣府の賃上げアイデアコンテストで「優勝」

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