80時間分の固定残業代を含めた求人は問題なのか?

80時間分の固定残業代を含めた求人は問題なのか? 労務管理

サイバーエージェントという東証プライムに上場している大手IT企業が打ち出した{初任給42万円(固定残業代80時間、深夜残業代46時間込)」という新卒の求人が話題になっていました。
法律的に問題があるのか?
何が問題だといわれているのかを解説します。

固定残業代とは?

固定残業代とは、あらかじめ残業が発生することを念頭に置いて(みなし残業)、支給する給与に残業代を含んで支給しておくというものです。

まず、固定残業代自体がブラックである、違法であるというような表現をしている方がいますが、
“固定残業代は違法ではありません。”
事務コストを減らし、業務効率を上げる事にもつなげられる制度であり、正しく制度を利用することで会社にプラスになるものです。

固定残業代のメリットとデメリット

固定残業代のメリット

・給与計算の手間を軽減
固定残業代を導入することで、毎月の残業代の変動を抑えることができ、人件費が月により大きく変動することをなくし、一定の金額を支払うことで、毎月の給与計算を楽にすることができます。

・業務効率の向上
固定残業代を支給する際に、会社はみなし残業時間を決めます。
このみなし残業時間分の給与は、働いても働いていなくても支給されます。
つまり、早く仕事を終わらせれば、従業員はその分”得”になります。
これをしっかりと理解してもらうことで、業務効率が上がり、従業員が処理できる仕事量が増え
会社の利益を増やすことができます。

固定残業代のデメリット

・残業代の固定発生
みなし残業は、毎月残業があることを考慮して設定します。
ですが、まったく残業が無かったとしても残業代の支払いをしなければいけません。
業務量が少なく、暇であったとしても残業代が発生していますので
会社によっては損をしたと感じるようです。

・制度が複雑で理解されない
固定残業代を設定すると、残業代を払っているからとみなし残業時間を超えても残業代を支払わなかったり、みなし残業時間を設定されているから、その時間は残業しないといけないと勘違いしたり
制度を正しく理解されないことがあります。
そうなると、せっかく制度を導入しても、業務効率の向上や給与計算の手間の軽減など期待する効果を得ることができなくなります。

・トラブルの原因になる
制度が難しく理解されない事にも関係しますが
会社と従業員との間で理解がずれてしまい、トラブルに発展することも多くあります。
残業代を支払う必要があるのに支払わなかったり、早く帰れるよう仕事をしてもらうようにしたのに、いつまでも会社にいて、さらに残業が増えたりと様々な事が起きる可能性もあります。

すべてが固定残業代によるものではありませんが、毎年これだけの数の会社が未払残業代を指摘され、後から支払うことになってしまっています。
この様な事が起きないように気を付けましょう
リンク先:厚生労働省_監督指導による賃金不払残業の是正結果

固定残業代の勘違い

固定残業代は、最初から残業代を支払っています。
だから、残業代を支払わなくてもいいと考えている会社の方や、労働時間を管理しなくてもいいと勘違いしている会社の方のいますが、これは大きく違います。

固定残業代は、あらかじめ決まった労働時間分(みなし残業時間)の残業代を上乗せしているだけなので、あらかじめ決めてあった残業時間を超えて働かせた場合、差額分を支給する必要はあります。
もちろん、会社には労働時間の把握の義務もあるので、労働時間を把握し、過労死につながるような長時間労働が無いように管理もしなければいけません。

この様な勘違いで運用している会社が多いため”固定残業代は違法”という考え方を持つ方もいます。
固定残業代を制度として導入する場合は、そのようにならない様、法律に則って運用をしてください。

※固定残業代導入のため注意点
リンク:厚生労働省(固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。)

80時間分の固定残業含む求人は問題なのか?

今回の求人ですが、法律的には問題ありません。
残業代を控除すると、基本給は24万円程度まで下がってしまいますが、これは最低賃金を下回るような著しく低い給与ではありません。

※ 最低賃金計算 240,000円 ÷ 173時間 = 1,387円(東京の最低賃金 1,072円)
ここだけ見ると、基本給の支給金額として法律上の問題はありません。

労働時間の観点から見ると、問題があります。
固定残業代は毎月残業する金額(みなし残業時間分の給与)を前もって支払っているという考えですが、毎月80時間の時間外労働は過労死ラインと言われる時間数で、これを続け、体調を崩し、万が一死亡してしまうような場合、過労死として認定される基準になります。
固定残業代を導入し、みなし残業時間を設定するんだから、毎月その時間を働けという考えであれば、労働時間的には完全にアウトです。

この様に、ルール的には問題ないが、実際に働かせてしまうと問題になる求人だといえます。

今回の求人はいい求人なのか?

人事労務の専門家として今回の求人がいいのか悪いのかを考えると、次のような方には向いています。

・自分の能力を向上し、成果を評価してほしい人
・自分の能力を評価してもらいたい人


この様にこれまでの日本の人事評価の基礎になっている、年功序列や終身雇用をもとに考えている方には全く向きませんし、とても悪い求人だといえます。

しかし、最近日本の労働に関する考え方も変わってきています。
ジョブ型雇用や成果主義と言ったこれまでの日本の労働慣行には無かった価値観をもとに
この求人を考えると、決して悪いものでは無いです。

また、求人の内容だけ独り歩きしていますが、東証プライムに上場している今回の企業の場合
従業員の健康管理もしっかりと行っているようです。
アプリを導入し、従業員の健康管理を個別に行い、過労死などが発生しないよう注意をしっかりと払って運営を行っている会社ですので、入社したからと言って、毎月80時間の時間外労働を強要される可能性は少ないのではと感じています。

今回の求人の狙いは何だったのか?

今回の求人の狙いは、基本的にはプロモーションだったのでは?と私は感じました。
インフレが進み、併せて人件費も高騰してきている中、インパクトのある数字を出すことで注目を集めようと考えたのではないでしょうか?
基本給24万円は、上場企業の基本給としては高すぎるわけではないですが、今回の騒動により、注目を集めた結果、ある程度の応募はあるのではないでしょうか?

されに、従業員個人個人の業務効率を高める働き方を求めたとも言えます。
固定残業代は、あらかじめ残業代を含んで支給しているのですが、残業をしなくても固定残業代は支給しなければいけません。
つまり、労働時間を削れば削るほど従業員が得をする制度とも言えます。

労働時間を短くし、成果を出せるのであれば、会社といても大きなメリットがあります。
これまでよりも少ない時間で今の業務ができるのであれば、さらにたくさんの業務が処理でき、大きな利益を生みだせるようになるのではないでしょうか。

私の取引をさせていただいている会社さんでも、求人情報に載せる基本給について相談されることも多くなってきました。
基本給を少しでも高く見せるための戦略だったのではと私は考えています。

求人などでわからないことなどありましたら、ぜひこちらからご相談ください。

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