定年後再雇用の嘱託社員と正社員の労働条件の差異は違法か?
【概要】
セメント等運送事業を行っている会社に勤務しており、定年後嘱託契約にて有期雇用契約に切り替えて勤務している3名が、業務内容や職責の変更はないのに、正社員から嘱託社員に変わったことにより給与が30%近く低下しているのは労働契約法20条に違反しているとして会社を訴えた。
※労働契約法20条
不合理な労働条件の禁止
同じ使用者に雇用されている有期雇用契約の者と、無期雇用契約の者の労働条件を
期間の定めがあることにより不合理に差をつけてはいけない。
【経過】
地裁:労働契約法20条違反(労働者勝利)
高裁:労働契約法20条に違反しない(会社勝利)
【判旨】
※本判決は一審、二審と真逆の判断が下され、最高裁ではどのような判決が出るのか
注目されておりましたが今回は最高裁判決に絞って記載します。
労働契約法20条では、同一の使用者に雇用されている有期雇用契約労働者と無期雇用契約労働者について「期間の定めにあること」によって労働条件に相違がある場合
(1)職務の内容
(2)当該職務内容及び配置の変更範囲
(3)その他の事情
を考慮してその相違が「不合理」なものであることを禁止した法律です。
「期間の定めがあることに」とは、有期雇用契約労働者と無期雇用契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることと考えるのが相当であると示され(これは同日に判決がでた「ハマキョウレックス事件」と同じ)これに当てはめると、今回の事件では、嘱託社員(有期契約)の賃金と正社員(無期契約)の賃金の差はそれぞれの就業規則によって定められていることから、期間の定めの有無により労働条件の差異が生じているため、労働契約法20条により判断されるべきと判断をしました。
「不合理性」の判断に関して、最高裁は労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、「”有期雇用契約労働者と無期雇用契約労働者との労働条件の相違が不合理である”といえることと考えるのが相当だ」とし、不合理性の判断に関しては今回の件では職務内容などに関連する事情に限定せず、定年後の職務社員であることなどのその他の事情を考慮するべきであるとした。
(職務内容や業務転換の範囲は正社員と嘱託社員は同程度とした。)
今回の判決で、最高裁は示したこの部分は、今後労働契約法20条の「不合理」を判断するうえで有期雇用契約労働者がどのような立場の者かによって判断が違ってくる可能性があることを意味していると考えています。
この判決では、上記のような判断材料を示したうえで、賃金全体の金額ではなく、賃金項目ごとに考え、不合理性を決めるべきだというハマキョウレックス事件と同じ判断をしました。
その結果、精勤手当と超勤手当のみ労働契約法20条に違反するとし、それ以外は違反しないとの判断を下しました。
違反だと判断された手当では、「被上告人の嘱託乗務員と正社員の職務の内容が同一である以上、両社の間で、皆勤を奨励する必要性に相違はない」という判断をされていて、今後はこのように各賃金の項目にどのような期待を会社がしているかというような個別の事案を考慮されることとなりそうです。
最後に労働契約法20条違反の法的効果として、違反したから正社員と同じ条件になるというわけではないというハマキョウレックス事件と同じ判断をされました。
※労働契約法20条に違反したからと言って、有期雇用契約労働者の労働条件が
無期雇用契約労働者と同じとされることはないということ。
【今後の対策】
ハマキョウレックス事件と同日に言い渡された労働契約法20条の判断をする判決ですが、会社にて有期雇用契約の従業員と無期雇用契約の従業員がいる場合、各賃金項目をチェックをし、正社員には支払っているが嘱託社員には支払っていない賃金などがある場合は内容を確認し、手当を支払う代わりに会社が従業員に期待することを考え、これが不合理だといわれないように調整をしてください。
今回の判決では精勤手当と超勤手当の絡むところ以外は法令違反ではないという
判決が出ましたが、この判決があるからと安易な考えで労働時間や労働日数以外は差をつけても
大丈夫だと判断はしないでください。
判決でもケースによって「不合理」とされるかどうかは変わるといわれている通り、自社に置き換えた時にどうなるかは全く分かりません。
今回の場合、定年退職後の嘱託社員であり、年金受給までの間の雇用維持の意味合いがあったり
職能給ではなくなる代わりに基本給に上乗せするという契約に沿った対応を会社がしっかり考えていたり、嘱託契約時には30%ほど給与が下がるのが社会的に見て一般的だったりと
様々な要件が重なって出された判例となります。
すべての会社がこのような要件に当たることはまずありません。
会社によって労働契約や企業内のルールは違っていますので、全く同じ会社は存在しません。
「精勤手当だけ気を付ければいい」と考えずに、今支払っている手当すべてを確認いただき、万が一トラブルになった時でも会社に大きな損害が発生しないよう準備をしてください。
このような、今後の労務管理に大きく影響を与えるような判例はよく出てきます。
しっかりと確認をいただき、今後の会社経営に反映させてください。